高野秀行氏著作、「恋するソマリア」の読書記録。

高野秀行氏著作、「恋するソマリア」の読書記録。

唯一のソマリア専門家?高野秀行氏「謎の独立国家ソマリランド」を読んでみた」の記事で紹介した、「謎の独立国家ソマリランド」。
その兄弟作品にあたる「恋するソマリア」を読んだのでその書評を残します。
今回はタイトルにある通り、ソマリランドというより、ソマリア全体に焦点を置いて書かれた作品でした。

「謎の独立国家ソマリランド」との違い

兄弟作である、「謎の独立国家ソマリランド」との違いは、
ソマリランド単体だけでなく、ソマリア全体をフォーカスして書かれている点と、今回はプントランド(海賊国家)はほぼ出てこない点。
特に、南部状況についてかなりまとめられており、
戦闘の最前線付近に行った日本人(もしくは外国人)のジャーナリストは高野氏だけなのではないでしょうか?

また、前作より写真の量が増えていました。
ワイヤッブやハムディといった個性的な人物を鮮明なカラー写真で見ることが出来るのは前作よりうれしい点になっています。
(特にハムディは写真越しでも美人さんでこれはモテる!等と考えていました)

平和を維持するソマリランドと未だ危険な南部ソマリア

「恋するソマリア」は、ソマリランドでの平和な日常パートと、南部ソマリアでの戦闘パートの二つに分けてまとめます。

未だ平和を維持し、緩やかに発展するソマリランド

ソマリ料理

ソマリランドは未だ平和を維持し、緩やかに成長を続けているようで、平和な取材パートが続いていました。
作者の高野氏はなんと今回ソマリアの家庭料理を習い、それを作品に掲載しています。
自分はアフリカ方面には残念ながらまだ旅行に行ったことが無いので、どのような味か想像もつかないのですが、
トウモロコシ粉や、ヤギ肉等、既に原材料からして日本に馴染みが無い。

面白いのは、日本ほど細かい味の調整をしていないという点。
鍋で煮込むという点一つとっても、「弱火でXX分」はおろか、「強火で煮立つまで」なんて目安はないらしく、
強火でガンガン煮込んで平気で5分くらいよそ見や別の作業をするという・・・。
底が焦げ付いて美味しくなくなりそうなものですが、そこは日本の主婦と同じく、長年の「勘」でもあるのかもしれません。

他にも、ソマリランド出身のミュージシャンの話や、
ソマリにとって重要な「氏族」の文化について掘り下げて取材するなど、平和な話が続き、やはりここがソマリアの一部ということに驚きます。

暗殺の横行する危険な南部ソマリア

戦車

そして打って変わって南部ソマリアでは、ジャーナリストの暗殺が横行しているという物騒な話からはじまります。
謎の独立国家ソマリランド」でも出ていた人物の一人が暗殺され、しかもその瞬間に立ち会ってしまった人物もいることが書かれています。
更に高野氏は色々あって(この辺の下りは面白いので、詳細は是非購入して読んでみて欲しい)、戦闘の最前線に連れ出されてしまいます。
その帰りにテロ組織の待ち伏せにあい、銃撃戦に巻き込まれる
やはり、まだまだ南部では危険なテロ組織が強い勢力を持っているということを認識せざるを得ないエピソードです。

この時、高野氏は田舎の人々の暮らしを見て、過激派を支持するのも無理もないと考察します。
というのも、田舎には何もないため、過激派の言うような、「映画禁止、酒タバコ禁止」等の禁止事項が苦にならない。
都会で発展のために競争して精神をすり減らし、環境を破壊して生きていくより、田舎でゆったりと余裕をもち、自然と共生する。
こういった主義を広義には「マオイズム(毛沢東主義)」というそうです。
実際、自分も東京に暮らしていると、全員が「上昇志向でなければいけない」という強迫観念に駆られて生きているのを感じて時々マイペースだと生きにくいなと思います。
それでテロに走るのは反対なのですが、名前の通り毛沢東など、
かつて政治のトップに上り詰めた人がいる程度には多くの人間が抱えている思想なのかもしれません。
田舎には田舎の悪さがあるので、どちらが正しいとか正しくないとかは無いと思います。
上手く棲み分けが出来れば一番なんだけどな、と思ったりしました。

まとめ

恋するソマリア」は、「謎の独立国家ソマリランド」よりページ量こそ少なくなっていますが、
マオイズム」の話、他にも「ジャーナリズムの根源的な問題」、「宗教と選挙」の話など、
ソマリアに関係ない面での教養が磨かれるような鋭い考察がなされていて面白い一冊でした。

もちろん、ソマリア関連についても南部状況についてここまで踏み込んだ(踏み込めた)外国人ジャーナリストは日本はもちろん、
恐らく世界で見てもそう多くないはずで、貴重な資料であるとまで言っても過言ではないと思います。
是非兄弟作「謎の独立国家ソマリランド」と合わせて読んでみてください。
少なくとも、ソマリアについて興味のある人にとっては非常に情報量が多く、参考になる作品です。